予防接種

インフルエンザについて


(1)世界的大流行

2009-10年シーズンは日本で新型インフルエンザが大流行しましたが、インフルエンザは1918年以降、数回の世界的大流行(パンデミック)が発生しています。

インフルエンザの歴史の中でも最大と言われるのが、1918-19年にパンデミックを引き起こしたA/H1N1型インフルエンザウィルスによるスペインかぜで、当時の世界人口18億人のうち5億〜10億人が発症し、4,000万〜8,000万人が死亡したとされています。日本でも当時の人口5,500万人のうち2,300万人が発症し、死亡者数は45万人にも達しました。

その後、1957年にはA/H2N2型によるアジアかぜ、1968年にはA/H3N2型による香港かぜと、周期的な大流行が起こっています。

そして、2009年2月にメキシコで発生した新型インフルエンザウィルス(パンデミック(A/H1N1)2009)は、型はA/H1N1(ソ連)型と同じですが抗原性が全く異なるため、パンデミックを引き起こしたと考えられます。さらに2009年5月には国内でもこのブタ由来の新型インフルエンザ(H1N1pdm)が出現し、2009年9月-2010年4月まではA型のほとんど全てがこのウィルスによるものであり、結果的に香港型やソ連型などの季節性のA型の流行はほとんどみられませんでした。

このようにインフルエンザウィルスは抗原性を変化させ、流行を繰り返しています。

(2)インフルエンザウイルス

インフルエンザウイルスにはA・B・Cの3型があり、このうちA型B型がヒトのインフルエンザの原因になります。C型は小児期に感染して呼吸器感染症の原因になりC型インフルエンザと呼ばれますが、毎年世界的な大流行を起こす一般的な生活の中で呼ばれるものとは症状や原因ウイルスの性状の点でも差異が大きいものです。

A型とB型のウイルス粒子表面にあるヘマグルチニン(赤血球凝集素、HA:haemagglutinin)とノイラミニダーゼ(NA:neuraminidase)という糖蛋白は変異が大きく、インフルエンザの種類が多い要因となっています。

A型インフルエンザウイルスにはHAとNAの変異が特に多く、これまでHAに16種類、NAに9種類の大きな変異が見つかっており、その組み合わせの数の亜型が存在します。亜型の違いはH1N1-H16N9といった略称で表現されています。ヒトのインフルエンザの原因になることが明らかになっているのは、「Aソ連型」として知られているH1N1、「A香港型」として知られているH3N2、H1N2、H2N2、の4種類です。この他にH9N1、高病原性トリインフルエンザとして有名になったH5N1などいくつかの種類がヒトに感染した例が報告されていますが、ヒトからヒトへの伝染性が低かったため大流行には至っていません。しかし、いずれ新型インフルエンザが定期的に大流行を起こすことは予言されつづけています。ヒトに感染しない亜型のウイルスは鳥類や他の哺乳動物を宿主にしていると考えられています。特に水鳥ではHAとNAの組み合わせがすべて見つかっており、自然宿主として重要な地位を占めていると考えられています。同じH1N1であってもさらに細かな変異によって抗原性や宿主が異なり、年によって流行するウイルスの型は異なります。

B型は遺伝子がかなり安定しており、免疫が長期間続きます。C型は遺伝子がほとんど変化しないので免疫が一生続きます。A型は時々遺伝子が大きく変わるので、時折パンデミックを起こします。

(3)インフルエンザの症状・経過・合併症


1.インフルエンザの症状
インフルエンザはかぜ症候群の一つですが、主な症状がのど・鼻などの上気道にみられるかぜに対して、38度を超える突然の高熱から頭痛や関節痛などの全身症状が強く現れるのが特徴です。

2.インフルエンザの経過
インフルエンザウィルスに感染してから約1〜3日の潜伏期後にインフルエンザを発症します。続く1〜3日の症状期では、突然の38度以上の高熱や関節痛、筋肉痛、頭痛などの全身症状が顕著に現れます。やや遅れて、咳やのどの痛み、鼻水などの呼吸器症状が現れ、悪心などの消化器症状や腰痛を訴えることもありますが、通常10日前後で治癒します。

3.インフルエンザの感染経路
インフルエンザの感染経路は、インフルエンザウィルス感染患者の咳やくしゃみのどのしぶきに含まれるウィルスを吸い込む飛沫感染が主です。インフルエンザウィルスは、呼吸とともに鼻腔咽頭から体内に入り込み、気道粘膜に吸着して細胞内へ侵入し、上気道から下気道、さらには肺で急激に増殖していきます。つまり、抗インフルエンザウィルス薬の標的器官は、気道〜肺になります。

4.インフルエンザウィルスの増殖速度
インフルエンザウィルスの増殖速度は非常に速く、1個のウィルスが24時間後には100万個になるといわれています。そのため、ノイラミニダーゼ阻害薬などの抗インフルエンザウィルス薬はできるだけ早期(発症後48時間以内)に服用を開始することが重要です。一方で、インフルエンザの確定診断を迅速診断キットで行う場合、発症6時間以内は感度が10%前後と低く、高熱がみられてから1日以上経過していないと陽性にならないこともよく経験します。できるだけ早期に的確に診断し、服用を開始することが重要と考えます。

当院では発熱して間もないインフルエンザの早期診断を可能にする、高感度インフルエンザ迅速診断検査器による検査が可能です。


5.インフルエンザ発症後のウィルス残存について
インフルエンザによる熱などの症状が改善しても、ウィルスが残存しているといわれています。実際にインフルエンザ発症後3日経過していても約8割の患者で残存しております。ウィルス残存率はA型よりもB型で高く、15歳以下の小児の方が16歳以上の成人よりも高い傾向にあります。しかし一般的には、抗インフルエンザウィルス薬を服用して熱が下がったり、症状が軽減したりすると、服用を中止してしまう傾向があります。タミフル(オセルタミビル)やリレンザ(ザナミビル)などの抗インフルエンザ薬は1日2回、5日間服用する薬剤です。ウィルスの残存に対しても、また周囲への感染を防ぐ意味でも5日間しっかりと服用することが重要と考えます。


6.インフルエンザの合併症
インフルエンザの合併症として、小児の脳炎・脳症、高齢者の肺炎などがよく知られておりますが、この他に中耳炎、筋炎、心筋炎などもあります。高齢者はインフルエンザで弱った体に、細菌感染などを発症し肺炎に進展しまうことがあります。一般成人に比較して予後が悪い場合があり、ワクチン接種を受け、早期に治療したのにもかかわらず命を落としてしまうようなこともあります。小児で命にかかわる合併症はインフルエンザ脳症です。死亡する割合は以前より減少しておりますが、後遺症が残ることも多い注意すべき合併症です。

(4)インフルエンザワクチン

従来、季節性インフルエンザワクチンはA型の香港型とソ連型およびB型の3価のワクチンでありましたが、2009年は新型インフルエンザ(H1N1pdm)が出現したため、H1N1pdm単独のHAワクチンが国内で生産され季節性ワクチンとは別に接種されました。2010-11年以降従来のソ連型に代わってH1N1pdmが採用され、香港およびB型との3価のワクチンになっております。

ワクチンの有効性に関する研究では、ワクチンの接種を受けた人の方が受けていない人よりもインフルエンザ発生率が低く、ワクチンの有効性が示されました。インフルエンザワクチンは発病を100%抑えるほどの効果はありませんが、重篤な合併症や死亡を少なくし、感染してしまった場合でも症状を軽めに抑えることが期待できます。特に高齢者や小児、基礎疾患を有するハイリスクグループに含まれる方は、流行が始まる前に余裕をもって接種するようにしましょう。

インフルエンザワクチンの接種を受けた後の注意としては、接種後24時間は副反応の出現に注意し、接種後30分以内は特に注意し、医師とすぐに連絡をとれるようにしておきましょう。接種部位は清潔に保ち、当日の入浴は差し支えありませんが、過激な運動、大量の飲酒は避けましょう。よく起こるワクチンの副反応としては、接種部位が赤く腫れたり、硬くなるなどの局所反応がみられることがありますが、通常は2〜3日中に消失します。

(5)インフルエンザの治療

1.抗インフルエンザウィルス薬
抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)は、タミフル(オセルタミビル)とリレンザ(ザナミビル)が中心でありましたが、2010年1月に点滴注射薬のラピアクタ(ぺラミビル)が、また9月には長期作用型吸入薬のイナビル(ラニナミビル)が保険適用になりました。タミフル・リレンザは1日2回、5日間服用する必要がありましたが、ラピアクタ・イナビルは1回の投薬で効果が得られます。またラピアクタは点滴で投与する薬剤であり、薬が飲み込めない高齢者にも対応できます。

タミフル : 成人・37.5kg以上の小児 ⇒ 1回1カプセルを1日2回・5日間内服。
  1歳以上の小児 ⇒ ドライシロップを1日2回・5日間内服。
  10歳以上の未成年においては原則使用不可。
  香港型・新型(H1N1pdm)・B型に対しては耐性ウィルスは低頻度。
ソ連型はほぼ100%が耐性。
   
リレンザ : 吸入薬。1日2回5日間吸入。
 
イナビル : 吸入薬。長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害薬。
1回のみ吸入(10歳未満:1容器吸入、10歳以上:2容器吸入)
 
ラピアクタ : 点滴注射薬。長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害薬。
成人には300mgを15分以上かけて1回点滴。
(重症化する恐れがある場合は1日1回600mgまで可)

2.インフルエンザに随伴する異常言動・行動
タミフル服用後に異常言動・行動が出現し、事故死する例が問題化され、2007年3月から10代におけるタミフルの原則使用禁止が現在も継続しています。異常言動発現例の38.4〜43.1%は無治療で発現しており、異常言動は薬剤だけが原因となっているとは思えず、インフルエンザそのものに起因する可能性が考えられるという報告もあります。抗インフルエンザウィルス薬服用後はもちろん、服用していない場合でも、異常言動・行動による事故発生を防ぐためには、インフルエンザ罹患中の患児に対する注意深い観察が必要です。

3.解熱薬について
15歳未満のインフルエンザ患者では、アスピリンなどのサリチル酸系解熱鎮痛薬、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸製剤などの解熱薬は、インフルエンザ脳症を重症化して、致死率を高めるという報告があります。小児のインフルエンザに伴う発熱に対しては、より危険性の少ないアセトアミノフェン(カロナールなど)が適切です。

4.抗生剤について
インフルエンザウィルス感染症は細菌感染の合併がなければ、抗生剤の投与は特に必要がありません。しかし、高齢者では肺炎の合併の恐れがある場合には、早い段階で抗生剤の使用を考慮しなくてはいけません。また、抗インフルエンザウィルス薬により熱が下がっても、咳・痰・鼻水などがしばしば長く続くことがあります。この症状に対しては、クラリスロマイシン(クラリス)という抗生剤が有効であるという報告があります。クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質には、インフルエンザに伴う上気道炎症状を改善しウィルス感染を抑制する効果と、気道炎症抑制効果があり、抗インフルエンザウィルス薬と併用する場合もあります。

5.漢方薬
インフルエンザの歴史は人類とともに古く、当然、古代中国人も罹患していたと考えられます。中国後漢時代に書かれた『傷寒論』にはインフルエンザに類似した急性熱性疾患に対する治療法が解説され、頭痛・肩こり・発熱・悪寒などの初期症状に麻黄湯が適応と記されています。麻黄湯はインフルエンザの初期に保険適用があり、抗インフルエンザウィルス薬との併用が有効であると考えます。
漢方薬ですので小児は服用が難しいと思いますが、うまく服用させるためにはリンゴジュースなど酸味が強いものや、味の強いチョコレートのアイスなどと混ぜると飲みやすくなるという調査があります。

(6)インフルエンザの予防3原則

1.インフルエンザワクチンを接種して免疫をつける

2.感染経路を断つ
・なるべく人が集まる場所への外出を避ける。
・外出後は手洗い、うがいをしましょう。
・外出時はマスクを着用しましょう。
・適度な室温(20〜22度)と湿度(50〜60%)を保ちましょう。

3.抵抗力をつける
・十分な睡眠と休養を。
・バランスのとれた食事を。
・健康的な生活習慣を心がけましょう。

十分な体力や抵抗力が備わっていれば、インフルエンザにはかかりにくくなります。仕事などで激務をしたり、睡眠時間が少なかったり、無理なダイエットをしたりしていると体力・抵抗力が低下してかかりやすくなります。流行期はぜひ無理のない生活をするように心がけましょう。

【参考資料】
(1)インフルエンザ診療マニュアル
(2)インフルエンザの最新知識
(3)漢方医学

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